大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(行コ)8号 判決 1981年8月27日

控訴人(原告) 川村三郎

被控訴人(被告) 農林水産大臣

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が指定漁業起業不認可処分に対する控訴人の異議申立てに対し昭和五五年七月二三日付でした右申立てを棄却する旨の決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係については、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(主張)

一  控訴人

控訴人は、本件起業の認可を受けなければ漁民として生きて行くことはできないのであるから、被控訴人においては、漁業法の目的、内容及びその運用の実態等を充分に斟酌し、同法の趣旨が潜脱され、若しくは形骸化することのないよう総合的に判断して、本件申請の許否を決すべきである。又本件申請は、戦前戦後を通じて我が国における北洋さけ・ます流し網漁業権第一号の許可を求めるものであつて、その決定がなされることにより善良な漁民の勤労意欲と合理的経営による成績の向上をもたらし、これによつて蛋白資源の供給の重大さを認識する漁民の子弟が多くなるのであるから、被控訴人としては、これらの点を考慮し、法の下の平等の精神に則つて本件申請の許否を決しなければならない。しかるに、被控訴人は、以上の点を考慮せず、控訴人が旧樺太先住者日本人であることを根拠に本件不認可処分をしたものであつて、右は憲法一四条を無視したものであり、これを支持した原判決は、法の解釈を誤つたものである。

二  被控訴人

控訴人の前記主張は争う。

(証拠関係)<省略>

理由

当審も、控訴人の本訴請求は、これを棄却すべきものと判断するが、その理由については、左に付加するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。当審における新たな証拠調の結果によつても、引用にかかる原審の認定判断を左右することはできない。

控訴人は、被控訴人において控訴人が旧樺太先住者日本人であることを根拠に本件不認可処分をした旨主張するけれども、被控訴人がかかる理由に基づいて本件処分をしたことを認めるに足る証拠は全く存しない。従つて、本件処分が憲法一四条を無視してなされたとする控訴人の主張はその前提を欠くものであつて、採用することができない。

以上の次第で、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉田洋一 中村修三 松岡登)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例